プロローグ
「あのときの約束覚えてる?」
「あぁ、もちろんだ」
「私はこんな腐った世界にはいたくない」
「俺もこんな世界は許せない」
「「さぁ、世界の破壊を始めよう」」
第一章
―――――・・・
「今日はここまでだな」
「えー、もっとやろうぜ!」
「駄目だ。ちょっと暗くなってきたし、今日はこのくらいで終わりにするぞ」
「はーい。じゃあまた明日な!!」
俺、ロイドはいつもどおり、親友で兄のような存在のレイソルと剣の稽古をしていた。
レイソルと俺は幼馴染で、本当に小さい頃からいつも一緒にいる。
俺たちが住んでいる"セファイ"も本当にいいところだ。ほかの町や村では魔物がたまに襲ってきたり
住人どうしの争いがあったりするけどここではそんな事は全く無い。
魔物の気配もないし住人同士の仲もいい。
「・・・ん?何の音だ?」
不意に地鳴りのような音が聞こえてきた。
聞いたことの無い音だな・・・何の音だ?
しかもだんだん近づいているような気がする・・・まさか!
「たっ大変だ!!」
俺がある予想にたどり着いたとき、村の入り口に男が飛び込んできた。
「どうした!?何があったんだ?」
「魔物が・・・魔物が襲ってきたんだ!!」
「なっ・・!」
男の話の内容は俺の予想通りのものだった。
だけど話を聞いても俺は信じることができなかったんだ。
だって魔物が襲ってきたことなんて、今までに一度も無かったから。
「魔物だ!魔物が来たぞ!!」
村の警鐘が魔物がきたことを知らせる。
次々に人を襲う魔物達。
「ぐあぁっ!」
「キャアァア!!」
魔物になれていない皆は混乱してどんどんやられている。
「ど、どうしよう・・・俺・・俺・・・・!」
当然俺も混乱していた。
どうすれば。何をすればいいのかわからない。
「どうしよう・・・・・どうしよう・・・・っ!」
「怪我をしていない人は怪我人を連れて北にある峠へ!早く!!」
聞きなれた声が聞こえる。この声は・・・
「レイソル!」
「ロイド!」
俺は村人に的確に指示を出しているレイソルに駆け寄る。
「無事だったんだな!!よかった」
「レイソルこそ・・・」
「あぁ。村人はみんな峠に逃がした。俺たちも逃げよう」
「わかった」
俺はレイソルと峠を目指す。その途中俺は始めて村を見た。
いたるところで土煙が上がり建物は崩壊している。
数分前まであった、あのきれいでにぎやかなセファイはどこにもない。
「ロイド・・・・・」
「ごめん、いこう」
あの村にはもう戻れないのかもしれないと思うととてもつらい。
そう思いながら振り返って一歩踏み出す。
「!!ロイド!危ない!!」
「え・・・!?」
急にレイソルに引っ張られた。
その勢いで俺は後ろに倒れこむ。
「てて・・・いきなりなんだよレイソル・・・・・っ!?」
起き上がって振り返るとそこには一匹の魔物とうずくまっているレイソルがいた。
その腕からは血があふれ出ている。
「レ・・・レイソル・・・血がっ・・・・・!!」
大量の血なんか見たことの無い俺は、もちろんパニくっててまだその場に魔物がいるのも忘れて
レイソルに駆け寄った。
「馬鹿野郎・・・大丈夫だから早く逃げろ」
「でも、それじゃあレイソルが・・・・」
「大丈夫って言ったろ。早く行け・・」
嘘だ。本当は大丈夫じゃないことくらい、俺にだってわかる。
だってそんな無理して笑ってるじゃないかよ・・・・!
レイソルはこんな状態でも俺を心配してくれるのに、
俺は守られてばっかで・・・何もできないのか・・・・・?
くやしい・・・力が、力が欲しい・・・・・・・・っ!!
≪力無き者よ・・・≫
「えっ・・・・?」
突然頭の中に声が響く。
≪力を求めるか?≫
「はぁ?」
力を・・・・求める。確かに俺は力を求めた。
だけど・・・本当にこの声に力を求めてもいいのか?
≪求めるのならば、祈りを≫
「祈り・・・・・・・・」
どうする?どうすればいい・・?
一度目を閉じる。レイソル・・・・・・
俺も何かしたい。誰かを守れる力が欲しい。
俺は力を求めてる!力が欲しいんだ・・・
≪貴様の祈り。しかと受け取った。貴様には温もりを伝える暖かき力を授けよう≫
は・・・?どういうことだ!?暖かき力・・・・・?
意味が分からないうちにその声は消えてしまった。
頭の中で何かがぷっつり切れたような感覚がして
もう、声は聞こえないというのを自分の中で感じた。
「!!・・・レイソルっ!」
俺は今の状況を思い出しあたりを見回す。
すると魔物が近づいてくるのが分かる。
なんとかしてこいつを倒さないとレイソルが・・・
そう思ったとき右手の薬指に違和感を感じた。
「なんだよ、これ・・・」
指には宝石が埋め込まれた金色の指輪がはめられている。
この指輪・・・・・光ってる?どうなってるんだ・・・?
「なんだよ・・・これ・・うわっ」
左手でその指輪を触った瞬間。大きな力が俺の体の中に
流れ込んでくるのを感じた。
「力が・・・あふれてくる・・・・?でも、これなら・・!!」
いける。そう確信した俺は、魔物に向かって走った。
「はあああぁっ!!!」
頭上から魔物に向かって渾身の力を出し剣を振り下ろす。
魔物は苦しそうな声を上げるとゆっくりと倒れた。
「はぁ・・・はぁ・・・・やった・・・・」
俺はすごい疲労感に襲われて膝をつく。
「魔物・・・倒せた・・・・・・っ!!」
すごく疲れたけどすごくうれしい。
魔物を倒せた、大切な人を守れたということが。
「レイソル!!」
物陰に隠れていたレイソルの元に急いで駆け寄る。
右腕を押さえているレイソルが見えた。
とりあえずは無事みたいだ。
「だっ大丈夫か?怪我が・・・」
「これくらい平気だ。それよりロイド魔物を一人で倒したのか・・・・?」
「この指輪が・・」
「指輪?」
「うん。これなんだけどさ」
俺は右手の薬指をレイソルに見せた。
ちゃんと見るのは俺も初めてだけど・・・。
紅い宝石がついたシンプルな指輪。
宝石はなんだか炎みたいな形してるな。
こんなのだったのか・・。
「これのおかげで魔物を倒せた気がするんだ」
そういってレイソルの顔を見るとなんだか難しそうな顔をしている。
どうしたんだろう?俺なんかへんなこと言ったか?
「・・・・・ロイド」
「ん?」
「見せたいものがあるんだ。だから今度俺の家を訪ねてきてくれないか」
「うん。別に良いけど・・・」
見せたいもの?どうしてこのタイミングでそんなこと・・・
今までに無いくらいレイソル、真剣な顔してるし。
「それじゃあ俺は誰か処置してくれそうな人を探してくる」
「俺も行くよ!」
「いや、ロイドは逃げた村の人の安否を確認してくれ。
俺は大丈夫だから」
「・・・うん。分かったよ」
「頼んだぞ」
そういってレイソルは峠の先へと向かっていった。
一人その場に残された俺は指輪についてもう一度考える。
きっとこの指輪は俺に力をくれるもの・・・
何にもできない俺を強くしてくれるものなんだ・・・・・
これがいったい何なのか、もしかしたら後でとんでもない代償があるのかもしれないけれど
誰かを守れるなら俺はそれでもすごくうれしい。
「ロイド!!」
「あ!こっちだ!」
声が聞こえたほうからは見慣れた村のやつら。
よかった。怪我をしている人はいるけどひどいやつはいなさそうだな。
「よし。セファイに帰ろう!」
俺は先頭にたって村へと向かっていく。
魔物が来たことは驚いたけれど、これだけですんで本当によかった。
そう思いながら家に帰ることのできる喜びに浸った―――