ズル休み〜先輩・後輩編〜






南沢さんは入部して最初に話しかけてくれた先輩だった。
それから同じFWっていうこともあってよく話すようになって…
俺はいつの間にか南沢さんに惹かれていたんだ。
そんな俺が南沢さんに告白して付き合うようになったのは2年の春。
一緒に帰ったり、休日出かけたり、そんな程度のことだけど、恋人っぽいこともした。

だけど、南沢さんは突然いなくなった。
サッカー部を抜けて、転校してしまった。
さすがにその後はあう機会もなくて……
そのまま自然消滅って感じになったんだ。
でも俺の気持ちは変わってなくて…
その後もずっと好きで。
こんなの女々しくて嫌だって思ったけど、それでもダメだった。
好きで好きで、たまらなかった。
そしたらこないだの月山国光戦。
驚いたことに相手チームには南沢さんの姿。
試合の結果、俺達雷門はなんとか月山国光に勝つことが出来た。
それでその後、俺は南沢さんに気持ちを伝えた。
まだ好きです、もう一度付き合って下さいって。
そしたら、南沢さんは別れたつもりはなかったのに、って言って微笑んだ。
それで今日、俺は南沢さんと久しぶりのデート。

「南沢さんっ!」

南沢さんはもうすでにその場所に来ていた。
俺は10分ちょいの遅刻。
少し気だるそうな表情で南沢さんはこちらに顔を向ける。

「おせーよ」
「すみません…って仕方なくないっすか!?ここ、雷門からすっごい遠いんすよ!」
「知ってる」
「ひどいっすよ〜…ここまでくんの大変なんですからね?」
「はいはい。お疲れ」

ったくこの人は……
実は今日、部活を休んできた。
この大切な時期に。
あとで霧野とかになんか言われそうだけど気にしない。
だって大切な用事だし。
それに浜野にちゃんと言ってきたからな、俺。

「ていうかお前から誘ったんだろ?」
「まあそうっすけど……場所決めたのはあんたでしょ!?」
「そうだけど」
「そうだけど…じゃないっすよ!もうちょっと俺のことも考えてください!」

はぁー、と大きなため息をつく。
会って数分なのにすげー疲れた気がする。

「そんなに深くため息ついて…俺といるの、嫌?」
「え、そ、そんなことないですけどっ!」

南沢さんは悪戯っぽく笑ってそう言った。
明らかにからかわれてる。
ちょっと悔しい。
だけど、一緒にいられるだけで楽しくて……
悔しいとか、疲れたとか、部活サボっただとか。
そんなことどうでもよくなってくる。

「そろそろどっかいこうぜ」
「あ、そうっすね」

俺達は特に何の予定もなくぶらぶら歩きだした。
久しぶりだからなのか、南沢さんは黙りっぱなし。
俺も言いたいことがあったけど、何となく言いにくくて黙ってた。
でも、このままじゃだめだ。
言わなきゃ。

「あ、あのっ」
「ん?」
「あの…言いたいことがあるんすけど……」
「なんだよ」
「あの、ちょっと……」
「?」

俺は南沢さんを近くにあった公園につれてった。
別に公園じゃなきゃだめってわけじゃないけど、なんとなくあんな人が結構たくさん歩いてるところで話しこむのは悪い気がして。
それにあんな道の真ん中で言うのは恥ずかしかった。

「あの……この間、ホーリーロードで戦いましたよね。その試合の後、南沢さん、天馬のこと『天馬』って名前で呼んでましたよね?」
「そうだけど…それがどうした?」
「今年の春から恋人だった俺より先に天馬のことを名前で呼ぶってどういうことっすか!?」
「はぁ!?」

そう、それは月山国光戦からずーっと気になってたこと。
南沢さんが誰かを名前で呼んだことのは聞いたことが無かった。
だから、俺が最初に名前で呼ばれたいってひそかに思ってたんだ…。

「そんなこと言ったらお前のほうがひどいだろ!?苗字にさん付けじゃねーか!それに天馬のことも名前で呼んでる。」
「うっ……いや、そうっすけど………」

そう言われたら言い返せない。
だけど…
やっぱり名前で呼んでほしい。
恋人なんだから。

「あ!じゃあ俺も名前で呼びますから、南沢さんも俺のこと名前で呼んでくださいよ!」
「……いいぜ」

な、なんか緊張するな…。
名前で呼ぶだけなのに…!
一度大きく深呼吸すると俺は南沢さんを見た。

「いきますよ…?」
「典、人………」
「あ、篤志………///」

俺の顔が途端に真っ赤になる感じがした。
な、名前呼びって想像以上に恥ずかしいぞ!?
南沢さんはどんな顔してんのかな…?

「…南沢さん?」
「なんだよ」
「顔、真っ赤っすよ」
「うるせーよ…///お前もだろ…っ」
「はは、やっぱりっすか?」

そう言ったら軽く頭を小突かれた。
今の、真っ赤になった南沢さんはいつものかっこいいって感じの印象はなくて、逆にかわいいって思ったんだ。

「名前呼び、やめましょうか」
「そうだな。こんなの毎回やってたら身が持たない」
「その通りっすね」

俺達は笑いあった。
すこしだけ、前に戻れた気がする。
まだ南沢さんが雷門にいた頃に…。
もうあの頃には戻りたくても戻れない。
でも、俺達は新しく始めて行けばいいんだと思う。
誰かの真似じゃなくて、俺たちらしく―――――




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だいぶ前にアップした「ズル休み」の南倉南編です。
倉間が乙女っぽいですね…w
ズル休みで倉間が部活を休んだ理由がこれに来るためです。
南倉、倉南はイナゴの中でもトップクラスで好きですv
なので書いててとても楽しかったです♪
実は蘭拓、天京も考えているので、そちらもアップすると思います。
遅くなるかもしれませんが気長にお待ちください。